1869年(明治2年)出版の『JAPAN』を修復する ― 2023年09月11日 01:06

154年前にロンドンで出版された洋書『JAPAN』を修復することにした。
表紙カバーも本文もしっかりしているのだが、表紙の天地が擦り切れて、本文の天地がむき出しになっているのと、
表紙と本文をつなぐ部分のノドの見返しが破れかけていた。
古本市にて、2000円で手に入れたものだったが、私がこれまで手にした洋本のなかで一番古いものだったので、いつか修理したいと思って大事にとってあった。
中身の本文や、表紙のカバーはしっかりしていて、そのまま引き継げるので、製本工房の親方指導のもと、2日間ほどで修理が完了した。
修理概要は以下のとおりである。

タイトル:JAPAN
サブタイトル: A SCKETCH OF THE HISTORY , GOVERNMENT AND OFFICERS OF THE EMPIRE
著者:WALTER DICKSON
出版社:WIILIAM BLACKWOOD AND SONS EDINBURH AND LONDON 1869年出版
装丁:丸背上製本 489ページ
修理内容:
背表紙天地部分の補強、

見返しのノドの部分(本文と表紙の接続部分の外れ)の補強、

本文の背固め(ページが外れないように背を補強)、
遊び紙として本文の前後に和紙を追加


これで次の100年に引き継がれることであろう。表紙の葵の御紋の金箔押しが150年過ぎても輝いている。

毛沢東を「修復」する~黒につつまれた赤~ ― 2023年08月28日 16:30

 30年以上前に北京や日本の語学学校等で手に入れた毛沢東関連の古書を思い出し書棚から取り出すと、ビニールの表紙が変形・変色していた。いずれも文化大革命真っただ中の1960年代の出版で、当時の生活水準を偲ばせる簡素な装丁であった。それらをこの機に「贅沢」な総革に仕立て直すことにした。

まずは書籍本体、以下の4冊だ。
①『毛沢東選集』(中国語):1406ページ
②『毛沢東思想勝利万歳』(中国語 毛沢東語録も収録):579ページ
③『毛沢東語録』(日本語):431ページ
④『Quotation from Chairman MAO TSU-TUNG』(英語):312ページ

装丁前:ビニール製ブックカバー型並製
装丁後:総革丸背ソフトカバーつきつけ装
表紙:赤のシュリンク牛革
見返し:北京で購入した文化大革命トランプをコピー
タイトル:ホットペンと星型活字で箔押し
ケース:羊革五星紅旗空押し観音開き掛金錠四方帙 内側はアートレザー

 4冊とも原本は見返しもなく全体が粗末なものだった。以前北京軍事博物館で購入した文化大革命トランプから、文革当時のプロパガンダポスターをカラーコピーして、見返しにしつらえ、「豪華」な総革装丁に見合うカラフルさを演出した。

毛沢東語録とプロパガンダポスターは同時代のものであるが、本は本、ポスターはポスターで用途が別なので、当時でも両者は一緒に使われることはなかった。それを今回装丁しなおした本の中にプロパガンダポスターを見返し(表紙の内側)に仕立ててコラボさせた。

 最後にこの4冊を収めるブックケースがポイントだ。中国共産党にとっても「黒歴史」である文化大革命をとらえるには、ブックケースも黒以外考えられなかった。一頭分の黒い羊革を使い、観音開き風のケースにし、外装は鉄格子の向こうに、文化大革命自体の人民や毛沢東が見えるしつらえにした。この観音開きの扉を閉ざす錠は、以前ホームセンターで懐かしいと思って衝動買いし、いつか使いたいと思っていた掛金錠を使った。

最後にケースの上蓋、鉄格子の毛沢東の窓の下方に、五星紅旗を、金箔は使わず、黒い★を演出するため空押しをした。
「黒」につつまれた「赤」。「黒」を開けると、華やかかりし文化大革命の遺産「赤」がお出ましになる。世界広しといえどこんなに「豪華」な総革装丁の毛沢東語録は他にはないであろう。

折り本を修理する~明治大正昭和大絵巻~ ― 2023年01月06日 15:39

戦前に発行された『明治大正昭和大絵巻』を購入し修理した。

屏風のように折本になっていて、その両面に、明治大正昭和に起こった出来事を解説付きで描かれている絵巻だった。

折本の山折の部分が一部外れ、屏風が途中で切れていた。
折ったまま和紙でくるみ、フエキ糊で貼り付けた。山折にしたまま貼り付ける理由は、平らに伸ばして和紙を貼ると、山折にしたときに負荷がかかるため、最初から山折にして補強和紙を貼り付けるのだ。
修理自体は難しいものではなく時間もかからなかった。
以下、絵巻風景の一部を紹介する。

明治12年 国歌制定

明治22年 憲法発布

明治33年 大正天皇ご成婚 炬火行列
【著書】
明治大正昭和大絵巻
昭和5年1月1日 キング第七巻第一号(新年号)附録
発行所:大日本雄辯會講談社
折本 明治元年から昭和五年までの毎年の出来事が絵巻で描かれている

123年前の世界(世界寫眞帖より) ― 2022年12月31日 18:45

明治43年(1910年)発行の『世界寫真帖』を1200円で購入し修復した。

表紙は並製(ソフトカバー)で、ボール紙が折れ曲がり筋が入っていた。中身を綴じてある紐もはずれ、背中もむき出しになっており中身をゆっくり読むには耐え難い状況であった。

まず、残った紐をすべて外し、表紙と中身を分離した。

はずした元の表紙がこちら、劣化しており中身を支えるにはこころもとない
表紙は、表と裏表紙を中身と一緒に綴じこみ、新しく硬いボールで足継ぎ表紙を作り、しっかり読むために上製本に想定しなおすことにした。

写真帳の中身は、釘と紐で平とじされていたので、明治時代の錆びた釘を抜き取り、作った表紙を包み、最後にもともとあった平綴じの穴に鳩目を打って、新しく青い紐を通して綴じなおした。

足継ぎ上製本(ハードカバー)に仕立て直した。

最後にもともとあった表紙のタイトルと同じ字体で、新しく作ったハードカバーの表紙にホットペンで金箔でタイトルを書き込み完成した。【世界】の文字

完成してゆっくり広げられるので、改めてぺらぺらとめくってみた。

今でも、中世の街並みを残しているヨーロッパの街を見てもあまり変化は感じないが、とりわけ、ニューヨークと横浜の変化は激しかったので以下の通り紹介する。

123年以上前のニューヨークマンハッタン
摩天楼が全くない。写真右上に微かに見えるのはリバティ島の 1886年に贈呈されて間もない自由の女神か?
123年以上前の横濱港、世界との玄関口であるが、地方の小さな港街の様

【著書】
世界寫真帖
明治43年12月発行
ともゑ商會発行
田山宗堯著作

大隈重信伯爵の著書を修理する ― 2022年12月31日 16:11

これまた古書市にて1000円程度で見つけた大著『開國大勢史』を修理することにした。分厚くて天金(本のてっぺんの小口に金箔が施されている)随分立派な本だなと思ったら、著者はかの早稲田大学創設者で日本国内閣総理大臣でもあった大隈重信伯爵(最後は侯爵に)であった。

ビニールカバーで保護されているがカバーの下にはすでに革が劣化しており、今にも本体から外れそうだった。

立派な金のタイトルが入いる劣化した背表紙を丁寧に外す。

コーネル装だったので、本の四隅の三角コーナーの革も剥がし、新しく三角コーナーに革を貼る。

本体の背に新しい地券紙と寒冷紗を貼って背中を強化した後、平のでの劣化した革もカネヘラで剥がし、三角コーナーと同じ色の新しい革で包む。

包んだあとは、表紙に革を包み込むために、見返しに切り込みを入れてめくり、革を貼り付けて、めくった見返しをまたもとに貼り込む。背中の部分も細いスパチュラで革を背表紙と本体の隙間に入れ込む。

見返し(表紙の内側と本体をつなぐ1枚紙)の喉の部分も破れていたので、同じような紙を短冊状にして喉を渡すようにして貼り込んだ。

最後に、劣化したタイトル入りの背表紙に丁寧に革保護用油を何日もかけて塗り込み、硬化した革に多少潤いが戻ったところで、新しく貼り終わった背にもともとのタイトルを貼り付けて完成した。

【著書】
開國大勢史
大正2年4月 早稲田大學出版部、實業之日本社発行
大隈重信伯爵著
革コーネル装上製本

古書の外科手術 ― 2022年12月29日 16:01

背表紙の革が劣化し本体から外れかけている戦前の辞典を修理することにした。

まず、外れかけている背表紙は思い切って外す。

平のでの部分にのこった革も金箔線の手前まで、金属のへらでそぎ落とす。

剥がしたら、新しい地券紙と寒冷紗で背中を強化し,綿テープをぐるぐる巻きにして、ボンドが乾いて背に完全に張り付くまで一日以上待つ。

中身の綴じはしっかりしているので、それは活かすとし、背表紙に使うよく似た色の革を探し、平のでの金箔の手前の線まで背表紙に丁寧に貼り込み本体にくるむ。

剥がした元の背表紙をは硬直化しているが、タイトルの金箔文字はまだ十分きれいで活かせる。

元のタイトルの周囲を出来上がった背表紙の縦横幅より若干内側の寸法にカットし、背表紙に張り付けやすくする。 一番傷みやすい背表紙が新しい革でしっかり包まれたので、これで安心して読めるようになる。

【著書】
最新百科大辞典
昭和X年 東京愛之事業者發行
装丁:上製本革片袖装

重量7キロの辞書修復が終わる ― 2022年12月26日 22:22

N. Webster

辞書の見開きにあったWEBSTERの肖像画

22年8月に古書市で買った古い辞書の修復が、12月に完成した。

古書市の片隅の地面に置かれていたこの立派で大きな辞書、店主に価格を尋ねると200円だという。.
「本当に200円でいいんですか」と思わず聞き返した。.
手製本を学んでいる者からすると、総革で、金箔押し、パッセカルトンと呼ばれる100年前の手仕事の高級辞書である。難点と言えば、背表紙の革が劣化しており、表表紙が本体から外れていることだ。

修理を学ぶものにとっては格好のサンプルであるが、問題はこの重い辞書を自宅まで持ち帰ることと、私がこれを修復することを製本工房の親方が果たして許してくれるかである。.
「あなたのレベルではまだ教えられない」などと断れたらどうしようという心配であった。.
しかしこの可哀想な100年前の壊れた辞書を目の当たりにすると、私が何とかしてあげたい、という気持ちが先に立ち後先考えず購入し持ち帰った。.

次の製本教室の日に親方に先に写真を見せて、修理したいのだが指導してもらえるか相談したら、親方は『本当にやる気か?』という表情で苦笑いしながら承諾してくれた。.

9月から工房での修理が始まった。.
本文の中身の綴じはしっかりしており、修理が必要なのは劣化した背表紙を付け直し、表紙と本体をしっかりつなぐことだった。.

背表紙の劣化した革を剥がし、同じような色の革を用意し、 本体の背に張り付け、外れていた表紙を貼り込んでつないだ。 ここまでの作業工程で約2か月以上かかった。

本体は完成したが、7キロというこれだけの重量の辞書であるから 自らの重さで再び壊れることを遅滞させるためにも、この辞書を収める保存ケースも必要だと思い、作ることにした。 これに約1か月かかった。

12月24日に巨大辞書の修復と保管ケースが完成し、5カ月ぶりに辞書を自宅へ持ち帰った。.
親方に「長い間ご指導いただきまして有難うございました、おかげさまで本日完成しました」とお礼を言うと、.
珍しく私に笑顔で「今日は清々しい気持ちで帰れますね」と労ってくれた。

以下、5カ月の修復作業の内容である。

【辞書】.
Webster's New International Dictionary of the English Language
Published by G&C Merriam Company in 1924
2620ページ(重量7キロ).

【修理内容】.
背表紙の革の張り替え
上製本片袖装の平ので金箔押し

【保存ケース】.
コーネル装風総革夫婦箱
金箔押し
タイトルをホットペンにて金箔押し

製本道具をそろえる~ホットペン~ ― 2022年05月08日 02:54

コンセントに挿して、金や銀のロール箔※の上から文字や線などが書ける電熱ペンで、本のタイトルを印字するときに使う。難点は基本的に手書きなので、完璧な活字は描けない。裏返せば、手書きの味わいが出せる。 ※ロール箔:接着剤が着いた箔で、上から熱を加えると箔が写る
コピー用紙に印刷した活字をトレーシングペーパーに写し、本の背中+金のロール箔+トレーシングペーパーをセットし、上からホットペンでなぞってタイトルを描いた。

製本道具をそろえる~竹ゆびわ~ ― 2022年05月01日 22:30

表紙貼の折り返しなどに使用する。平ボールに糊ボンドを塗ったクロス(布地)や革をくるんで巻き込む。その際に、表紙のフチや巻き込んだのりしろを竹ゆびわでこすって馴染ませる。

製本道具をそろえる~筋玄翁(すじげんのう)~ ― 2022年04月30日 09:25

耳出しするための道具で、柄が短く、打面に筋の付いた金づち。
本の背中が丸い丸背(まるぜ)を装丁する工程において、本の背中を丸くしたあと、プレス機に挟んで、背中のフチ2ミリ幅ほどを筋玄翁でたたいて、90度寝かすための道具。