重量7キロの辞書修復が終わる2022年12月26日 22:22

N. Webster

辞書の見開きにあったWEBSTERの肖像画

22年8月に古書市で買った古い辞書の修復が、12月に完成した。

古書市の片隅の地面に置かれていたこの立派で大きな辞書、店主に価格を尋ねると200円だという。.
「本当に200円でいいんですか」と思わず聞き返した。.
手製本を学んでいる者からすると、総革で、金箔押し、パッセカルトンと呼ばれる100年前の手仕事の高級辞書である。難点と言えば、背表紙の革が劣化しており、表表紙が本体から外れていることだ。

修理を学ぶものにとっては格好のサンプルであるが、問題はこの重い辞書を自宅まで持ち帰ることと、私がこれを修復することを製本工房の親方が果たして許してくれるかである。.
「あなたのレベルではまだ教えられない」などと断れたらどうしようという心配であった。.
しかしこの可哀想な100年前の壊れた辞書を目の当たりにすると、私が何とかしてあげたい、という気持ちが先に立ち後先考えず購入し持ち帰った。.

次の製本教室の日に親方に先に写真を見せて、修理したいのだが指導してもらえるか相談したら、親方は『本当にやる気か?』という表情で苦笑いしながら承諾してくれた。.

9月から工房での修理が始まった。.
本文の中身の綴じはしっかりしており、修理が必要なのは劣化した背表紙を付け直し、表紙と本体をしっかりつなぐことだった。.

背表紙の劣化した革を剥がし、同じような色の革を用意し、 本体の背に張り付け、外れていた表紙を貼り込んでつないだ。 ここまでの作業工程で約2か月以上かかった。

本体は完成したが、7キロというこれだけの重量の辞書であるから 自らの重さで再び壊れることを遅滞させるためにも、この辞書を収める保存ケースも必要だと思い、作ることにした。 これに約1か月かかった。

12月24日に巨大辞書の修復と保管ケースが完成し、5カ月ぶりに辞書を自宅へ持ち帰った。.
親方に「長い間ご指導いただきまして有難うございました、おかげさまで本日完成しました」とお礼を言うと、.
珍しく私に笑顔で「今日は清々しい気持ちで帰れますね」と労ってくれた。

以下、5カ月の修復作業の内容である。

【辞書】.
Webster's New International Dictionary of the English Language
Published by G&C Merriam Company in 1924
2620ページ(重量7キロ).

【修理内容】.
背表紙の革の張り替え
上製本片袖装の平ので金箔押し

【保存ケース】.
コーネル装風総革夫婦箱
金箔押し
タイトルをホットペンにて金箔押し

古書の外科手術2022年12月29日 16:01

背表紙の革が劣化し本体から外れかけている戦前の辞典を修理することにした。

まず、外れかけている背表紙は思い切って外す。

平のでの部分にのこった革も金箔線の手前まで、金属のへらでそぎ落とす。

剥がしたら、新しい地券紙と寒冷紗で背中を強化し,綿テープをぐるぐる巻きにして、ボンドが乾いて背に完全に張り付くまで一日以上待つ。

中身の綴じはしっかりしているので、それは活かすとし、背表紙に使うよく似た色の革を探し、平のでの金箔の手前の線まで背表紙に丁寧に貼り込み本体にくるむ。

剥がした元の背表紙をは硬直化しているが、タイトルの金箔文字はまだ十分きれいで活かせる。

元のタイトルの周囲を出来上がった背表紙の縦横幅より若干内側の寸法にカットし、背表紙に張り付けやすくする。 一番傷みやすい背表紙が新しい革でしっかり包まれたので、これで安心して読めるようになる。

【著書】
最新百科大辞典
昭和X年 東京愛之事業者發行
装丁:上製本革片袖装

大隈重信伯爵の著書を修理する2022年12月31日 16:11

これまた古書市にて1000円程度で見つけた大著『開國大勢史』を修理することにした。分厚くて天金(本のてっぺんの小口に金箔が施されている)随分立派な本だなと思ったら、著者はかの早稲田大学創設者で日本国内閣総理大臣でもあった大隈重信伯爵(最後は侯爵に)であった。

ビニールカバーで保護されているがカバーの下にはすでに革が劣化しており、今にも本体から外れそうだった。

立派な金のタイトルが入いる劣化した背表紙を丁寧に外す。

コーネル装だったので、本の四隅の三角コーナーの革も剥がし、新しく三角コーナーに革を貼る。

本体の背に新しい地券紙と寒冷紗を貼って背中を強化した後、平のでの劣化した革もカネヘラで剥がし、三角コーナーと同じ色の新しい革で包む。

包んだあとは、表紙に革を包み込むために、見返しに切り込みを入れてめくり、革を貼り付けて、めくった見返しをまたもとに貼り込む。背中の部分も細いスパチュラで革を背表紙と本体の隙間に入れ込む。

見返し(表紙の内側と本体をつなぐ1枚紙)の喉の部分も破れていたので、同じような紙を短冊状にして喉を渡すようにして貼り込んだ。

最後に、劣化したタイトル入りの背表紙に丁寧に革保護用油を何日もかけて塗り込み、硬化した革に多少潤いが戻ったところで、新しく貼り終わった背にもともとのタイトルを貼り付けて完成した。

【著書】
開國大勢史
大正2年4月 早稲田大學出版部、實業之日本社発行
大隈重信伯爵著
革コーネル装上製本

123年前の世界(世界寫眞帖より)2022年12月31日 18:45

明治43年(1910年)発行の『世界寫真帖』を1200円で購入し修復した。

表紙は並製(ソフトカバー)で、ボール紙が折れ曲がり筋が入っていた。中身を綴じてある紐もはずれ、背中もむき出しになっており中身をゆっくり読むには耐え難い状況であった。

まず、残った紐をすべて外し、表紙と中身を分離した。

はずした元の表紙がこちら、劣化しており中身を支えるにはこころもとない
表紙は、表と裏表紙を中身と一緒に綴じこみ、新しく硬いボールで足継ぎ表紙を作り、しっかり読むために上製本に想定しなおすことにした。

写真帳の中身は、釘と紐で平とじされていたので、明治時代の錆びた釘を抜き取り、作った表紙を包み、最後にもともとあった平綴じの穴に鳩目を打って、新しく青い紐を通して綴じなおした。

足継ぎ上製本(ハードカバー)に仕立て直した。

最後にもともとあった表紙のタイトルと同じ字体で、新しく作ったハードカバーの表紙にホットペンで金箔でタイトルを書き込み完成した。【世界】の文字

完成してゆっくり広げられるので、改めてぺらぺらとめくってみた。

今でも、中世の街並みを残しているヨーロッパの街を見てもあまり変化は感じないが、とりわけ、ニューヨークと横浜の変化は激しかったので以下の通り紹介する。

123年以上前のニューヨークマンハッタン
摩天楼が全くない。写真右上に微かに見えるのはリバティ島の 1886年に贈呈されて間もない自由の女神か?
123年以上前の横濱港、世界との玄関口であるが、地方の小さな港街の様

【著書】
世界寫真帖
明治43年12月発行
ともゑ商會発行
田山宗堯著作