清水の舞台から飛び降りる ― 2021年09月23日 23:57
9月の連休、初めて横浜の古書市を覗いてみることにした。新しめの本ばかりだったので帰りかけたとき、すみっこに置いてある古い桐箱にふと目がいき、開けて見るとマーブル装がほどこされた文庫本サイズの本が7冊収められている。本を取り出してみると『萬国名所圖繪』と書いてありドキリとした。というのも3年程前、神保町の古本入札会に立ち寄ったときこの『萬國名所圖繪』と『日本名所圖繪』が二つの桐箱に収まって展示されていた。銅板の綺麗な絵と手の中に納まるコンパクトさに魅了され欲しくなった。ただ入札会だったので値段の記載は全くなく、古書店を指定して自分の代わりに入札してもらい、数日後に結果が出るというシステムで、私のような素人には入札額の見当もつかず、顔見知りの古書店もないので、ハードルが高く、いつかまたどこかで出会えれば、と思い一旦諦めていた。その本を横浜の古書市で3年ぶりに見つけたのだった。
結構な価格で、都内ワンルームマンション1か月の家賃位の値段が付いていた。半額位になれば即決しようかなと、店主に相談したがせいぜい消費税分くらいだと言われ、その日は諦めた。自宅に戻り、ネットで同じ本を販売している全国古書店を検索したら、木箱入りで全巻揃っているが表紙が欠けていたり、本に痛みがあってそれでも横浜の古本市より更に1万円高かった。
翌朝になったがやはり手に入れたい気持ちは変わらなかったので、あれから売れていないことを願いつつ、もう一度横浜に出かけることにした。「あった。」桐箱を開けて一冊一冊取り出して中を見ると、破れも虫食いもなく、小口三方に施されたマーブル染も全7巻完璧に残っており、明治20年発行の本が現代までそのまま時が止まったように綺麗な状態だった。買うことにする。桐箱をもってレジへいき、店主に前日来たものだと声をかけた。店主曰く「自分は40年この商売をやっていて、この本を取り扱うのは2回目だ。前回に比べて、これだけ状態がいいのは珍しいと思う」と説明してくれた。結局消費税+交通費で1万円まけてくれた。朝下ろしてきた万札を銀行の封筒から取り出して支払った。

価格は高かったが、欲しかったものがいい状態で手に入ったからか、清々しい気持ちで帰宅した。桐箱のふたの裏と、箱の後ろをよく見ると墨で文字が書いてあった。
箱の後ろには
『明治廿年七月十六日華族女子學校ニ於テ小学下等科第一級卒業ニ付、皇后宮御前ニ於テ学力秀抜行状優等ノ賞此万國名所圖繪七冊箱入り授與セラル 村田某某』とある。

桐箱の裏
ふたの裏には
『小學下等科第一級 村田某某 學力秀抜行状優等ニ付二等賞ヲ授與ス 明治廿年七月十八日 華族女學校』とある。

桐箱のふたの裏
華族女学校とは、現、学習院女子中・高等科の前身であり、「皇后宮御前」とは明治天皇の皇后である昭憲皇太后のことではないのか?
この本の元々の持ち主もそれなりの家庭の方で、しかもそれを手に入れた背景もこうやって知ると、この本がなぜこのように保存状態が良く、今に引き継がれたのか、納得した気持になった。
今回買った本は完全な形で維持されているので、修復の必要は全くない。せっかく清水の舞台から降りた気持ちで手に入れた本なので、大事に読んで、本を通じて100年前の世界名所を旅行してみたい
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