1年に40時間かけた成果~デコール~2022年02月10日 23:59

本の修復をしていると、表紙デザインのバリエーションの技法が欲しくなってくる。それを専門で教えてくれる「デコール」教室があったので通い始めて1年になる。「デコール」( (decar) とはフランス語で装飾様式、装飾物の意)で、現代製本よりも古い「パッセカルトン」と呼ばれる西洋製本の中で使われている技法で、革表紙に様々なデザインを施す技術である。
それぞれの本にふさわしい意匠やデザインを自由に表現する。線や模様を金箔で型押しする箔押し、色や種類の違う革を貼ったりはめ込んだりするモザイク、活字を使ったタイトル押しなどの基礎的な技術を学び、より美しく、完成度の高い本をつくるのが、教室の目的である。
実際にはフェールという真鍮のコテを電気コンロで温めて、焼き印のように革に押す。
これが実に根気のいる仕事で、2本の線をまっすぐしかもきっちり平行に引くだけであっというまに2時間過ぎてしまうこともある。
外枠の線の空(から)押し、金箔押しができたら、モザイク革を張る予定の部分にも空押しをして、モザイクが貼りやすいように革の表面を削って毛羽立たせる。
デコールの先生は、製本工房の親方くらい厳しい職人肌である。コンマ1ミリの違いも見つけて妥協しない、つまり私はやり直しの繰り返しなのである。こころの中では『これくらいのズレは見逃してほしい』と思いながらも、毎回それで小さなズレに妥協していると、最後に仕上がったものは全体がいびつになり美しく仕上がらないことを十分わかっているので、甘んじてやり直し指示を受ける。お陰で、手先はまだまだだが、先生にチェックされる前に、注意されそうなコンマ一ミリの違いが自分でもわかるようになってきた。ある意味忍耐という精神性とズレを知覚できる五感を研ぎ澄ますための自己鍛錬の修行でもある。
そのような先が見えない学びの中で、やっと出来上がったのが、こちらである。
モロッコ革と言われる山羊革に温めたフェールで空(から)押しをし、その線に純金箔を乗せて、また上からフェールで抑え金箔を定着させる。これが金箔押しである。更には別の色のモロッコ革を貼り付けその周りをまた空押し、金箔押ししてモザイクをつくる。
最後に先生から「まあ、ここまでできればいいでしょう」という言葉をいただくのに、1年計40時間かかった。払った学費も都心マンション家賃一か月分だ。隣に座っている生徒は、たった1冊の本のタイトルの箔押し練習だけで既に1年半過ぎている。
私のほうは次のデコール作品(花模様と直線のフェールの金箔押し)に取り掛かっている。修行は続く。

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