中国の隠れキリシタン2020年04月23日 03:07

中国の隠れキリシタン
写真整理していたら、1993年に私が中国の大学に語学留学していた時、留学生寮で宿直をしていたおじいさんと奥さんの写真が出てきた。留学終了後もおじいさんに会いに何度か中国を訪れており、これは2008年に最後に撮った写真である。
留学当時からこのおじいさんがカトリック教徒であることは知っていたが、お二人の寝室に入り、ベットの脇に十字架とキリストや聖母マリアの肖像画が飾ってあるのを知ったのはこの時が初めてである。

語学練習を兼ねて、夕食後の時間、事あるごとに寮1階宿直室にいるこのおじいさんとよくおしゃべりをした。寮の日本人ルームメイトがカトリック信者だったこともあり、それを知ったおじいさんから我々に声をかけ、世間話からカトリック談義までおしゃべりしたものだった。
おじいさんは20時頃になると、カバンから使い古した小さな短波ラジオを取り出し、バチカンから直接発信される中国語短波放送に周波数を合わせて聞くのが楽しみだった。なぜなら彼にとって「本当のカトリック」に触れられる手段であったからだ。というのも、1993年当時、カトリック総本山のバチカンと中国は国交を持っておらず、お互いに認め合っていなかった。従って、中国国内にはカトリック教会(天主教教堂という)と呼ばれるものはあるが、これは偽物だとおじいさんは言った。本来カトリック神父は結婚しないのだが、中国にいるカトリック神父は中国共産党が指名した神父であり、結婚もして子供もいる。ミサの仕方もバチカン方針に沿ったものではなく、聖書もすべて中国共産党に検閲され都合の悪い部分は書き換えられているとのことだった。だから自分は絶対に街の教会は行かない、とおじいさんがこっそり教えてくれた。
「それではミサはどこで受けるのですか」と尋ねたところ、中国共産党の中国建国の1949年以前から司祭をしている昔からの中国人神父様が健在なので、彼を自宅へ呼んで、こっそりミサをしているとのことだった。
まさしく、中国の隠れキリシタンだ。
当時から中国共産党は「宗教は麻薬だ」としてチベット仏教、イスラム教、法輪功の迫害のみならず、このように一部漢族が信じている正統のカトリックも厳しく規制していた。

留学期間が終わり、最後にこのおじいさんが一番喜ぶものを何か贈ろうと思い、私は香港に飛んだ。香港でカトリック教会を探し、教会付属のショップにある中国語のカトリック関連の書籍数冊と、当時のバチカン法王ヨハネパウロ2世のポスターを買った。そのころの香港はまだイギリス領であり、バチカンの方針に沿った、正統なカトリック関連のものが自由に手に入る中国語圏の一つであった。
これらを持って私は再び中国に飛び、自宅を訪ねおじいさんにプレゼントした。おじいさんは当然大変喜んで「宝物にする」と言ってくれた。中国では絶対に手に入らない本物のカトリックに触れられるからだ。受け取ると、外部の人に見られないようにと、すぐにそれらを寝室へ収納しに行った。
その後、おじいさんが住むこの街はどんどん区画整理と開発が進み、おじいさんの自宅も例外ではなかったようで、どこかへ立ち退きさせられたのか。この写真を撮った2008年を最後に、唯一の連絡手段だった電話が不通になり、日本から出した郵便が不達で戻ってきたことで、15年近く続いていたおじいさんとの交流は途絶えた。2008年のこの頃既に80歳近くだったかと思うので、ご健在なら90歳を過ぎていると思う。おじいさん一家全員がカトリック信者だったので、息子さん、お孫さんも信者としてどこかで生活しておられるだろう。

残念ながらここ10年でバチカンは、信者数の伸び悩みを中国市場に求めたのか、中国共産党に対する態度を軟化させ、中共に妥協し、2国の交流が開始されている。これまで本物のカトリックを密かに信じていた人々にとっては失望であり、ますます生きにくくなっているだろう。

追記(2020.05.06)バチカンの中共への屈服
https://www.youtube.com/watch?v=SAfpAa8mRsI

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